映画「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」公式サイト » ストーリー

本作の原作である小説「アンノウン・ソルジャー」は“フィンランドでは知らない者がない“ヴァイニョ・リンナの戦争文学の傑作で、作者本人が経験したフィンランドの戦争=継続戦争の戦場の実相を赤裸々に描いたものである。1955年、1985年、そして本作が同じ原作で3度目の映画化となる。

 継続戦争とは、第二次世界大戦中の1941年から44年にかけて、フィンランドとソ連の間で戦われた戦争である。継続戦争に先立ち1939年から40年にかけて、ソ連によるフィンランドへの侵略、いわゆる“冬戦争”が戦われた。この戦争でフィンランドは敗れ、1941年にドイツがソ連へ侵攻。それに呼応して、フィンランドはソ連との戦争を再開した。ドイツとともにソ連に侵攻したように見えるが、フィンランドの立場からすれば、ドイツとは別の戦争、すなわち冬戦争の継続であるとして、継続戦争と呼ぶ。

 本作品は、この戦争に参加した一機関銃中隊に配属された熟練兵ロッカ(エーロ・アホ)を主人公としている。ロッカは家族と農業を営んでいたが、冬戦争でその土地がソ連に奪われたため、領土を取り戻し元の畑を耕したいと願っている。そのほかに、婚約者をヘルシンキに残して最前線で戦い、ヘルシンキで式を挙げてすぐに戦場へとんぼ返りするカリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)、戦場でも純粋な心を失わないヒエタネン(アク・ヒルヴィニエミ)、中隊を最後まで指揮するコスケラ(ジュシ・ヴァタネン)、この4名の兵士を軸に進んでいく。

原作者ヴァイニョ・リンナ自身の経験から、第8歩兵連隊がそのモデルと言われる。第8歩兵連隊は継続戦争勃発を前に編成され、緒戦は冬戦争で失われた旧フィンランド領土ラドガカレリアの奪還を行い、東カレリアに侵攻、ペトロザボーツクを占領している。その後はスヴィル川の防衛線につき、1944年6月のソ連軍の大攻勢を受け止め、最後はヴィープリの防衛戦に投入された。

 映画は連隊の行動に沿ってその描写が進められている。冬戦争の犠牲を背景にした、フィンランド国内の厭戦的で旧領回復の願望とのアンビバランツな雰囲気、戦争の進展により旧国境を越えることに対して侵略者とされる理不尽。最後にはソ連軍の圧倒的な戦力によって再び戦争に敗れる痛み、これらが戦争の進展に従い赤裸々に描き出されている。「アンノウン・ソルジャー」はこうしたフィンランド民族が背負った歴史の重い十字架そのものを描写しているのである。